大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 平成8年(行ツ)223号 判決 1999年6月24日

福岡県筑紫野市大字武藏四八二番地の二

上告人

アンデルセン薬局有限会社

右代表者代表取締役

高野英子

右訴訟代理人弁護士

丸山隆寛

福岡県筑紫野市大字二日市七〇八番地の五

被上告人

筑紫税務署長 楠木正秀

右指定代理人

石井克典

右当事者間の福岡高等裁判所平成七年(行コ)第一七号更正処分等取消請求事件について、同裁判所が平成八年七月一七日に言い渡した判決に対し、上告人から上告があった。よって、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人丸山隆寛の上告理由について

原審の適法に確定した事実関係の下においては、平成六年法律第一〇九号による改正前の消費税法三〇条一項又は平成九年法律第五号による改正前の消費税法三三条一項を適用して本件課税期間につき上告人の課税仕入れに係る消費税額の控除をすることはできず、控除不足還付税額を零円とし納付すべき税額を四九万七三〇〇円とした本件更正は適法であり、右税額を基準としてされた本件過少申告加算税賦課決定も適法であるとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原審の右判断を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 遠藤光男 裁判官 小野幹雄 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 大出峻郎)

(平成八年(行ツ)第二二三号 上告人 アンデルセン薬局有限会社)

上告代理人丸山隆寛の上告理由

(第一点)

原判決(その引用する第一審判決を含む)は、「上告人の本件課税期間における控除対象仕入税額は〇円であり、控除不足還付税額は発生せず、被上告人のなした本件更正処分は適法である」旨の判断をしたが、これは消費税法三〇条一項、三三条一項等の法令の解釈適用を誤ったものである。

一1 消費税法三〇条一項によれば、課税仕入れに係る消費税額は、原則として仕入れた日の属する課税期間において仕入税額控除の対象とされる(なお、同法はこの点について、固定資産と一般消費財との間で何ら区別をしていない)。

2 また、同法三三条一項によれば、仕入税額控除を比例配分法により計算している場合には、調整対象固定資産の仕入れをした日の属する課税期間の課税売上割合が九五パーセント以上であっても、また、それ未満であっても、調整対象固定資産について、その後の年度における課税売上割合の変動などの所定の要件を満たす限り、第三年度において、仕入れに係る消費税額を調整することとされていた。

二 本件においては、本件課税期間(平成四年八月一九日から同年一〇月三一日まで)における建物、車両の仕入れに係る消費税額四九万七三五二円については、同法三〇条第一項により、本件課税期間においてその全額を控除すべきであり、その後において課税売上割合の変動があった場合には、同法三三条一項により、所要の調整を行えば足りると解すべきである。

(第二点)

原判決は、「事業者が当該課税期間において課税資産の譲渡をしていないため、消費税の納税義務がなく、単に控除不足還付請求をしたような場合であっても、かつ、現実に還付金の交付がなされなかったとしても、過少申告加算税賦課の対象となる」旨の判断をしたが、これは国税通則法六五条一項、三五条二項、二八条二項三号ロ等の法令の解釈適用を誤ったものである。

一 消費税は、課税期間中の課税資産の譲渡等の対価の額(課税標準額)に税率を乗じることにより得られる売上税額から、課税期間中の仕入れに含まれていた税額、すなわち仕入税額その他を控除することによって算出される(消費税法四五条、三〇条一項)。したがって、消費税の納税義務の成立は課税資産の譲渡のときであるということになる。

二1 ところで、原告は本件課税期間において、課税資産の譲渡がないのであるから、売上税額はなく、したがってまた、消費税の納税義務も確定申告の義務(消費税法四五条)もなかったのである(原告が本件確定申告をしたのは、同法四六条による還付を受けるためである。)

2 また、本件更正処分によっても、原告の還付請求が否認されただけであり、そのことにより、消費税につき「納付すべき税額」が新たに発生するものではない。

三1 国税通則法六五条一項によれば、期限内申告書(還付請求申告書を含む)が提出された場合において、更正処分がなされたときは、納税者に対し、その更正処分により「納付すべき税額」の一〇パーセントの金額の過少申告加算税を課することが定められている。

2 そして、本件のように、期限内申告により還付請求がなされた後、これに対する更正処分により還付金の額が減少する場合における過少申告加算税賦課の要件と加算税の基礎となる税額については、国税通則法六五条一項、同法三五条二項により、「その更正前の還付金の額に相当する税額がその更正により減少するときは、その減少する部分の税額」(同法二八条二項三号ロ)と規定されており、「その更正前の還付金の額がその更正により減少するときは、その減少する部分の還付金の額」とは規定されていない。

四 したがって、上告人が消費税の納税義務を負わない以上、これに対する過少申告加算税を賦課されるいわれはない。

五 なお、被上告人は平成五年四月二一日付国税還付金充当通知書を上告人に発送し、その中で、還付金四九万七三五二円を消費税本税四九万七三〇〇円と同加算税五二円の合計四九万七三五二円に充当した旨記載している。しかし、被上告人はこれより先、平成五年三月二二日付をもって、還付金がない旨の本件更正処分を行っているのであって、これにより上告人の本件確定申告書の提出による還付金請求はその効力を失うのであり、また、上告人に対する現実の還付はなされていないのであるから、右充当通知書の記載はその意味が不明であると言わざるを得ない。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例